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全粒穀物の謎
 
全粒穀物の豊富な食事がいわゆる成人病一般のリスクを下げるという証左に関しては多くの論文がある。
 
私個人は炭水化物にはそれぞれ一長一短があり全粒穀物が他の炭水化物源に比べて特に勝っているとは思わない。
 
しかし全粒穀物にはそれ特有の「健康効果」があり、その一部が明らかになりつつある。
 
例えばこの論文要旨の語気は強い。
 
”Despite epidemiological evidence showing that diets rich in whole grains reduce the risk of chronic life-style related diseases, biological mechanisms for these positive effects are mostly unknown. ” [1]
 
「全粒穀物の豊富な食事は慢性的な生活習慣病のリスクを減らすことを示す疫学的証拠があるにもかかわらず、これらの有用な効果における生物学的機序はメカニズムは分かっていない。」
 
つまりこの論文では「全粒穀物の豊富な食事は慢性的な生活習慣病のリスクを減らす」と前置きし、その事実は自明とした上で、メカニズムを解き明かすフェイズに入っているとしているわけだ。
 
穀物が2型糖尿病のリスクを下げる、という考え方、視点はいわゆる糖質制限派の考え方を真っ向から否定する。

偉い先生の短絡
 
全粒穀物食がインスリン感受性を改善するという例で代表的なのは「Ma-Pi 2」というマクロビ食で昔からよく知られている。
 
マクロビの思想はさておきマクロビが推奨する炭水化物中心の食事法が糖尿病治療の一環として目覚ましい効果を上げていることは明らかだ。[2]
 
糖質制限派の旗手とも言える「機能性医学界」のスター的存在、デビッド・パールマター博士の著書『グレイン・ブレイン』(穀物脳)が出版された当初(2013年頃)は私も糖質や穀物が悪いという情報をインプットするしか無かった。
 
パールマター博士のグルテン悪玉論に関しては一理ある。
 
しかし時間が経つにつれ、糖質悪玉論が現状に合わないことも明確となってきた。
 
作用機序の判別は困難な面があることは確かだが短絡論も多い。
 
糖質を止めたら病状が寛解した例が多数あるからといって糖質が病状の原因だったとするのは短絡である。
 
この短絡が見えない人は現状では多数を占める。
 
こう言い換えると分かり易いかも知れない。
 
つまり「糖質を止めたら糖質を代謝できるようになるのか?」ということだ。
 
答えはもちろんノーである。


パフォーマンス向上と治癒
 
糖質が代謝できなくなる原因は大きく分けて2つある。
 
広義のストレス(炎症)と脂質代謝の亢進である。
 
この2つはオーバーラップする面もある。
 
抗炎症食材である野菜・果物を中心とし脂質を大幅にカットした食事、プラントベースやマクロビ(Ma-Pi 2)は上述した「糖質が代謝できなくなる原因」を排除したものであることが分かるだろうか?
 
全粒穀物に話を戻すと、そこにはプラスアルファが存在することが最近明らかになってきた。
 
一つは5-AVAB(5-アミノバレリン酸ベタイン)でもう一つはピペコリン酸ベタインだ。
 
5-AVABは持久力を向上させる禁止薬物「メルドニウム」に構造が似ている。
 
つまり脂質のβ酸化を低減することでパフォーマンスのキャパシティを上げるわけだ。[3]
 
分かりやすく言い換えると脂質からのエネルギー供給を抑えることでパフォーマンスを上げるという仕組みを指す。
 
糖質代謝を向上させることでパフォーマンスの向上を図るということになる。
 
糖質代謝の向上⇔糖尿病の寛解⇔脂質代謝の低減
 
という図式が見て取れるだろうか?


もう一つの物質
 
5-AVABはL-カルニチントランスポーターの阻害により脂質代謝を阻害する。[1]
 
一旦脱線するが、L-カルニチンが心筋に良いという研究があるのと、カルニチンの生成を阻害するメルドニウム等の薬剤が心筋を護るという証左は矛盾しない。
 
L-カルニチンはアセチルカルニチン排出を促すため結果的にグルコース主体へと代謝を傾けるからだ。

全粒穀物摂取で増えるもう一つの物質はピペコリン酸ベタインで、この物質の方がインスリン感受性改善においてはより強い相関があるかも知れない。
 
血中のピペコリン酸ベタイン値が高い程、空腹時血糖値が低くなる傾向にある。[4]
 
またピペコリン酸ベタインはオレンジ、レモン、ベルガモットでも検出されている他[5]、コーヒー豆からも検出されている。[6]
 
こういったベタイン系化合物は一炭素代謝やSNPsとの兼ね合いも当然ある。
 
いずれにせよ全粒穀物においては耐糖能を改善する物質があり、それらが生活習慣病のリスクを下げる要因の一つとなっている。
 
同様の物質は果物や野菜、豆、コーヒー豆からも見つかっており、マクロ比率やカロリー収支によるダイエット法では到底説明がつかない代謝効果の説明や現状とのギャップを埋める手助けになっている。



出典


Reference: 

1. Kärkkäinen, O., Tuomainen, T., Koistinen, V. et al. Whole grain intake associated molecule 5-aminovaleric acid betaine decreases β-oxidation of fatty acids in mouse cardiomyocytes. Sci Rep 8, 13036 (2018). https://doi.org/10.1038/s41598-018-31484-5
 
2. Porrata, Carmen, et al. "Ma-pi 2 macrobiotic diet intervention in adults with type 2 diabetes mellitus." MEDICC review 11.4 (2009): 29-35.
 
3. Dambrova, Maija, et al. "Pharmacological effects of meldonium: Biochemical mechanisms and biomarkers of cardiometabolic activity." Pharmacological research 113 (2016): 771-780.
 
4. Kärkkäinen, Olli, et al. "Diets rich in whole grains increase betainized compounds associated with glucose metabolism." The American journal of clinical nutrition 108.5 (2018): 971-979.
 
5. Servillo, Luigi, et al. "Occurrence of pipecolic acid and pipecolic acid betaine (homostachydrine) in Citrus genus plants." Journal of agricultural and food chemistry 60.1 (2012): 315-321.
 
6. Servillo, Luigi, et al. "Homostachydrine (pipecolic acid betaine) as authentication marker of roasted blends of Coffea arabica and Coffea canephora (Robusta) beans." Food Chemistry 205 (2016): 52-57.

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