ビタミンCは天然と合成のどちらが良いのだろうか!? 1Muscle.com

繰り返される問答

何十年も前から「ビタミンCは天然の方が合成よりも優れているのかどうか?」という問いはあり、誰が何度回答しようが質問は絶えない。

そこでビタミンCにおける「天然 vs 合成」の歴史を紐解きながらビタミンC使用法の最適解を求めてみたい。

アスコルビン酸の分子構造

ビタミンC、アスコルビン酸の分子構造自体は天然であろうが合成であろうが変わらない。

 
Carr, Anitra C., and Margreet Vissers. "Synthetic or food-derived vitamin C—are they equally bioavailable?." Nutrients 5.11 (2013): 4284-4304.

Corti, Alessandro, Alessandro F. Casini, and Alfonso Pompella. "Cellular pathways for transport and efflux of ascorbate and dehydroascorbate." Archives of biochemistry and biophysics 500.2 (2010): 107-115.


吸収率の違い 天然 vs 合成

吸収率や有効性はどうだろうか?

1930年代 レモン vs ビタミンC

自然のビタミンCの方が優れていると結論した研究では、毛細血管の弾力性を比較している。[1]

しかし問題は、この研究ではビタミンC点滴と一日に10個のレモンを食べた場合とで比較していることだ。

果物には多くのバイオフラボノイドを始め数限りない微量栄養素が含まれている。

果物と単一分子で組織に与える影響を比較するのは愚かだ。


1940年代 ラズベリー vs ビタミンC

ビタミンC自体の吸収率に着目した場合、ラズベリーとビタミンCの結晶を比較した研究では果物でも合成ビタミンCでも違いが無いとしている。[2]


1940年代 レモン汁 vs ビタミンC水溶液

またテンジクネズミを使った研究ではレモン汁とビタミンC水溶液を比較しており、ここでも同様にビタミンCの吸収利用には差がないことが示された。[3]

しかし壊血病にまつわる症状はビタミンC水溶液よりもレモン汁摂取群の方が軽減されたという。


1940年代 パパイヤ、グアヴァ vs 合成ビタミンC

パパイヤやグアヴァなどのトロピカルフルーツに含まれるビタミンCと合成のビタミンCで尿中への排泄や血中レベルを比較した研究でも双方に有意な違いは見られなかった。[4]


1940年代 生キャベツ、缶トマトジュース vs ビタミンC錠剤

生キャベツ、缶トマトジュース、ビタミンC錠剤の3つの形態でのビタミンC摂取を血中レベル計測と尿中排泄量で比較した研究では三者に有意な違いは見られなかった。

しかし吸収率は生キャベツとトマトジュースの方がビタミンC錠剤よりも若干優れているのではないかとしている。[5]


1970年代 オレンジジュース vs ビタミンCサプリメント

1970年代に入ると白血球のビタミンC量によって合成と食品由来のビタミンCのバイオアベイラビリティ(生物学的利用能)が比較されるようになった。

オレンジジュースとビタミンCサプリメントの比較では白血球へのとり込みに違いは無いと結論された。[6]




1980年代 ビタミンC+柑橘系成分 vs ビタミンC水溶液

テンジクネズミを使った実験でビタミンCを柑橘系成分に加えて「ナチュラル化」したものとビタミンCを水に溶いただけのものとが比較された。[7]

この実験では「ナチュラル化ビタミンC」のバイオアベイラビリティは合成の約1.5倍であるという結果が出た。

ビタミンCはそれ単体よりもフルーツなどの「乗り物」と一緒に供給すると吸収率が格段に上がるようだ。

1990年代 食品群 vs ビタミンC錠剤

この研究では、オレンジジュースであろうがオレンジ果肉であろうが調理されたブロッコリーであろうが、ビタミンC自体を比較した場合、ビタミンCの錠剤とバイオアベイラビリティは何ら変わらないとされた。[8, 9]


2000年代 オレンジジュース vs ビタミンCサプリメント

この実験ではオレンジジュースとビタミンCサプリメントで血中の過酸化脂質をTBARS(2-チオバルビツール酸反応性物質)によって比較。[10]

両者に抗酸化作用の違いは見られないと結論した。


2010年代 キウィフルーツ vs ビタミンC水溶液

2010年代に入るとビタミンCの吸収率や利用率が血中レベルだけではなく、臓器でのレベルによっても解析されるようになってきた。

マウスを使ったこの研究ではキウィフルーツとビタミンC水溶液が比較され、場合によってはキウィフルーツの方が5倍も効率的にビタミンCを組織に供給することが確認された。[11]


2010年代 キウィフルーツ vs チューアブル・ビタミンCタブ

この実験は人間を対象にしたランダム化試験である。[12]

キウィフルーツと噛んで食べられるビタミンCタブで、血液、尿、精液、白血球、筋肉組織でビタミンC量の比較が行われた。

すると有意な差は見られなかった。

先のマウスを使ったキウィフルーツとビタミンCの比較実験のような結果は人間では見られなかったのだ。

 

バック・トゥ・ザ・フューチャー
1980年代 ビタミンC+柑橘系メディア vs ビタミンC

最近までの経過を見ると、合成であろうが果物由来であろうがビタミンCの分子構造はおろか、吸収率からバイオアベイラビリティまで何ら違わないように見える。

ところが、少し時代を遡ると現代に通用する非常に有用な研究があった。

先のキウィフルーツとビタミンCタブの研究における一つの「盲点」はビタミンC量が50mgだったということだ。

1988年の研究で同じ合成ビタミンCを柑橘系エキスと混ぜたものとそうでないものを比較した研究がある。[13]

この研究では柑橘系エキスと混ぜたものの方がビタミンCの利用率が35%も高くなった* のである。*AUC面積比

決定的違いはなんだろうか?

それはビタミンC摂取量である。

この実験ではビタミンC量を500mgにして比較されている。

本格的にサプリメントとしてビタミンCを1000mg以上摂るのであれば、果物や野菜などポリフェノール満載のキャリアー、「乗り物」があった方が圧倒的に効果的であるということだ。

このレベルの用量になってくると自然界の効能では無く、自然と科学が融合した別次元の効果になってくるだろう。

サプリメント単体では大量のビタミンCが上手く利用されない。

かといって果物や野菜から摂取できる量では無い。

ビタミンCと果物を同時に摂ることで新時代のバイオアベイラビリティが実現する。


ビタミンCとミネラルの融合

ビタミンCとカルシウムの化合物「ミネラル・アスコルベイツ」がビタミンC単体よりもより有効に利用され、尿中への排泄速度も遅いということはよく知られている。[14]

遺伝的にビタミンCが造れないラット、ODSラットを用いた壊血病に対する効果の実験でもビタミンC化合物の方がビタミンCよりも格段に優秀であるということが示された。[15]

特筆すべきは次に紹介する実験。

この実験では嗅球(匂いに関係する脳の部分)を摘出したマウスに5種類のミネラル・アスコルベイツ(カルシウム、マグネシウム、亜鉛、ナトリウム、カリウム)のミックスを経口で与えたところ、空間記憶の悪化が防止され、皮質の側頭領域のニューロンが変性せず保護されたという。[16]

つまりミネラル・アスコルベイツは脳にも好影響がある。


脂溶性ビタミンC

ビタミンCを脂溶性にするのは構わないがパルミチン酸アスコルベイト(Ascorbyl Palmitate)には少し注意したい。

最近このパルミチン酸、つまりパーム油の主成分の評判が良くないからだ。

ココナッツオイル(ヤシ油)にはパルミチン酸は8%程度しか含まれないが、パーム油には45%程度含まれる。

最近の研究ではNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)や様々な毒性においてパルミチン酸由来の病理が指摘されている。[17, 18, 19]

加工食品やアイスクリームにはパーム油が使用されている場合が多いので気をつけている。

その意味でサプリメントでもパルミチン酸摂取は抑えたいと感じる部分がある。

パルミチン酸アスコルベイトは総ビタミンC量の5分の1以下にしたいところである。


ビタミンCの摂り方

現時点でビタミンCの理想的な摂り方を考えるとするなら幅広いミネラル・アスコルベイツ(ビタミンCとミネラルの化合物)に加え幅広いアンチオキシダント、ポリフェノール、バイオフラボノイドを加えた形で摂りたいところだ。

つまりある程度高容量のビタミンC(1gを一日3回)と一緒にフルーツ、フルーツ・ジュース、野菜、アンチオキシダントなどを摂るのが良い。

合成か天然か?ではなく、合成+天然というアプローチがベストであるということははっきりしている。

こういったビタミンCの使用法はこれからの健康法として、精神状態から長寿まで、どのような恩恵をもたらしてくれるのか?

果てしないポテンシャルに期待は尽きない。
 

 

出典

Reference: 

1. Elmby, Alf, and E. Warbueg. "The inadequacy of synthetic ascorbic acid as an antiscorbutic agent." Lancet 233 (1937): 1363-1365.

2. Todhunter, E. N., and Alva S. Fatzer. "A comparison of the utilization by college women of equivalent amounts of ascorbic acid (vitamin C) in red raspberries and in crystalline form." The Journal of Nutrition 19.2 (1940): 121-130.

3. E. N. Todhunter, R. C. Robbins, G. Ivey, W. Brewer, A Comparison of the Utilization by Guinea Pigs of Equivalent Amounts of Ascorbic Acid (Vitamin C) in Lemon Juice and in the Crystalline Form, The Journal of Nutrition, Volume 19, Issue 2, February 1940, Pages 113–120

4. Eva R. Hartzler, The Availability of Ascorbic Acid in Papayas and Guavas: Two Figures, The Journal of Nutrition, Volume 30, Issue 5, November 1945, Pages 355–365

5. Mary M. Clayton, Ruby A. Borden, The Availability for Human Nutrition of the Vitamin C in Raw Cabbage and Home-Canned Tomato Juice: One Figure, The Journal of Nutrition, Volume 25, Issue 4, April 1943, Pages 349–360

6. Pelletier, O., and M. O. Keith. "Bioavailability of synthetic and natural ascorbic acid." Journal of the American Dietetic Association (1974).

7. Vinson, J. A., and P. Bose. "Comparative bioavailability of synthetic and natural Vitamin C in guinea pigs." Nutr Rep Int 27 (1983): 875-9.

8. Jesse F. Gregory, III, Ph D, Ascorbic Acid Bioavailability in Foods and Supplements, Nutrition Reviews, Volume 51, Issue 10, October 1993, Pages 301–303

9. Ann R. Mangels, Gladys Block, Carolin M. Frey, Blossom H. Patterson, Philip R. Taylor, Edward P. Norkus, Orville A. Levander, The Bioavailability to Humans of Ascorbic Acid from Oranges, Orange Juice and Cooked Broccoli Is Similar to That of Synthetic Ascorbic Acid, The Journal of Nutrition, Volume 123, Issue 6, June 1993, Pages 1054–1061

10. Johnston, Carol S., Candice L. Dancho, and Gail M. Strong. "Orange juice ingestion and supplemental vitamin C are equally effective at reducing plasma lipid peroxidation in healthy adult women." Journal of the American College of Nutrition 22.6 (2003): 519-523.

11. Margreet CM Vissers, Stephanie M Bozonet, John F Pearson, Lewis J Braithwaite, Dietary ascorbate intake affects steady state tissue concentrations in vitamin C–deficient mice: tissue deficiency after suboptimal intake and superior bioavailability from a food source (kiwifruit), The American Journal of Clinical Nutrition, Volume 93, Issue 2, February 2011, Pages 292–301

12. Carr, Anitra C., et al. "A randomized steady-state bioavailability study of synthetic versus natural (kiwifruit-derived) vitamin C." Nutrients 5.9 (2013): 3684-3695.

13. Vinson, Joe A., and Pratima Bose. "Comparative bioavailability to humans of ascorbic acid alone or in a citrus extract." The American journal of clinical nutrition 48.3 (1988): 601-604.

14. Bush MJ, Verlangieri AJ. An acute study on the relative gastro-intestinal absorption of a novel form of calcium ascorbate. Research Communications in Chemical Pathology and Pharmacology. 1987 Jul;57(1):137-140.

15. Verlangieri, Anthony J., Michael J. Fay, and Anthony W. Bannon. "Comparison of the anti-scorbutic activity of L-ascorbic acid and ester C® in the non-ascorbate synthesizing Osteogenic Disorder Shionogi (ODS) rat." Life sciences 48.23 (1991): 2275-2281.

16. Bobkova, N. V., et al. "Morphofunctional changes in neurons in the temporal cortex of the brain in relation to spatial memory in bulbectomized mice after treatment with mineral ascorbates." Neuroscience and behavioral physiology 34.7 (2004): 671-676.

17. Ogawa, Yuji, et al. "Palmitate-induced lipotoxicity is crucial for the pathogenesis of nonalcoholic fatty liver disease in cooperation with gut-derived endotoxin." Scientific reports 8.1 (2018): 1-14.

18. Osorio, Daniel, et al. "Multiple pathways involved in palmitic acid-induced toxicity: A system biology approach." Frontiers in neuroscience 13 (2020): 1410.

19. Al Saedi, Ahmed, et al. "Mechanisms of palmitate-induced lipotoxicity in osteocytes." Bone 127 (2019): 353-359.

 

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