筋トレすると筋肉が自ら抗炎症作用を発揮することが判明 1Muscle.com
余りの激痛に思わず声が出る
 
太ももが激しい筋肉痛になり動くこともままならないような状態を経験した人は多いだろう。
 
一挙手一投足にうめき声が伴う。
 
長い階段を降りるのは地獄の苦しみだ。
 
このような激しい筋肉痛は定期的に脚を鍛えていない人がたまにスクワットをやり込むと必ず起きる。
 
スクワットをやった次の日はそうでもない。
 
二日後くらいが痛みのピークになり筋肉痛が消えるまで4日くらいかかることもある。
 
しかしこの悪夢のような激痛は4日程度で消えてしまうのだ。
 
打撲や捻挫で歩くのもままならない程のダメージを受けるとどうなるだろうか?
 
下手をすると痛みが引くまで数週間かかることも珍しくない。
 
激しい筋肉痛が起きるのも不思議だが、筋肉痛が消え去るのはもっと不思議だ。
 
我々には筋肉痛を短期間で完治させる能力が備わっているに違いない。
 
この消炎鎮痛能力を慢性炎症や痛みのコントロール全般に応用することは出来ないものだろうか?
筋肉は語る
 
骨格筋は伝達物質を内分泌する器官であることが分かっている。
 
つまり骨格筋も伝達物質を介して全身に「話しかける」のだ。
 
大雑把に言って組織が分泌した伝達物質が血中に放出されることを内分泌、血液を介さず間質液に放出されると傍分泌、伝達物質が自らの細胞を制御する場合は自己分泌と呼ばれる。
 
内分泌は血流に乗るので全身への影響があり、傍分泌は組織液中だから近隣への影響、自己分泌は読んで字の如く。
 
骨格筋、いわゆる筋肉もこの三種類の分泌をする。
 
伝達物質のうち小さな蛋白質であるものをサイトカインと呼ぶ。
 
そして筋肉が分泌するサイトカインはマイオカインと呼ばれ数百種類以上あると考えられている。
 
ここ数年、エクササイズの「健康効果」はマイオカインにあるのではないかということで熱い注目を浴びてきた。
 
ところが筋肉の研究、特にヒト対象の研究には困難がつきまとう。
 
その状況を変えたのがデューク大学の研究チームだ。
マイオバンドル
 
ヒト骨格筋の培養に初めて成功したのは米国ノースカロライナ州のデューク大学でこの人工筋繊維は「マイオバンドル」と呼ばれている。[1] 
 
デューク大学の功績はヒトの筋繊維を取り出して増やしたのでは無く、皮膚から取った多様性幹細胞を使って筋繊維を作り出したことだ。
 
研究室で筋肉を作れるようになってしまった今、血の滲むようなトレーニングにもパラダイムシフトが訪れるかも知れない。
 
昨日面白い記事に出くわした。[2, 3]
 
同じくデューク大学がマイオバンドルを使い新しい発見をしたのだ。
(この実験におけるマイオバンドルは筋組織から培養されている。)
 
マイオバンドルに断続的に電流を流すと収縮と弛緩を繰り返し「筋トレ」をしている状態を模することが出来る。
 
なんと、この筋トレ状態のマイオバンドルはそれ自身に炎症ストレスを抑え込む能力があることが判明したのである。
 
具体的にはマイオバンドルを炎症性サイトカイン(インターフェロンγ)の溶液に浸し慢性炎症に似た環境下に置いても、マイオバンドルに「筋トレ」をさせれば筋繊維は強く健康的なままに保たれたということだ。
 
従来的な考え方は、筋肉を鍛えると伝達物質「マイオカイン」が筋組織から分泌され近隣の筋肉以外の組織、例えば、脂肪細胞やマクロファージ、T細胞やナチュラルキラー細胞などに情報が伝わり、それが筋組織にまたフィードバックされるとするものであった。[4]
 
ところが今回の実験で周辺組織が全く無くても筋繊維自体に抗炎症機能が備わっていることが確認されたのだ。
 
つまり筋肉そのものをしっかり検証すれば慢性炎症を攻略するカギが見つかる可能性がある。
 
作用機序の一つは特定のリウマチ薬(JAK−STAT系阻害型)とよく似ており、この実験では要するに外界との「会話」をシャットダウンすることでまず「毒」の影響を防いだ。
 
もう一つは自己分泌で筋繊維の統率を保持したということだ。
 
自分の筋トレを探そう
 
マイオカインは良し悪しでは語れない。
 
数百種類もあるからだ。
 
全てのマイオカインをひっくるめて「健康の素」として称することは出来ない。
 
マイオカインには炎症を悪化させる物質も多く含まれる。
 
重要なのは筋肉に適切なエクササイズ負荷を与えると抗炎症能力を発揮するということだ。
 
これは画期的な話である。
 
リウマチなど自己免疫疾患の痛みの周辺に電極をあてて筋肉をエクササイズさせることで炎症が鎮まる可能性がある。
 
筋肉の抗炎症能力が強大であると分かるのは激しい筋肉痛が消えて無くなることだけではない。
 
どれだけ激しいトレーニングを積み重ねても筋肉はその炎症に対して簡単に適応、肥大して行かないということが筋肉の「安定性」(恒常性)における最大の証左だろう。
 
この恒常性を治癒に応用する方法が今後模索されて行くはずだ。
 
それには「筋トレは良い!」のフェーズから「どんな筋トレが良いのか?」のフェーズへと一歩踏み込むことが重要である。
出典 
Reference: 
 
1. Madden, Lauran, et al. "Bioengineered human myobundles mimic clinical responses of skeletal muscle to drugs." Elife 4 (2015): e04885.
 
2. https://medicalxpress.com/news/2021-01-muscle-combats-chronic-inflammation.html
 
3. Z. Chen, B. Li, R.-Z. Zhan, L. Rao, N. Bursac, Exercise mimetics and JAK inhibition attenuate IFN-γ–induced wasting in engineered human skeletal muscle. Sci. Adv. 7, eabd9502 (2021).
 
4. S. Schnyder, C. Handschin, Skeletal muscle as an endocrine organ: PGC-1α, myokines
and exercise. Bone 80, 115–125 (2015).

コメントを残す

すべてのコメントは公開前にモデレートされます